焼戻しマルテンサイト鋼の水素脆化特性と破壊形態

 焼戻しマルテンサイト鋼の水素脆化破面は,大きくは ディンプル,擬へき開(Quasi-cleavage:以下QC),および 粒界(Intergranular:以下IG)破面に分類される1,2) 。同じ高 強度鋼でも水素濃度の増大や引張試験速度の低下に伴って ディンプルからQC,IGへと破壊形態は遷移する3–5) 。

 ディンプルは延性破壊に現れる典型的な破面形態であ り,マトリックスと強度特性の異なる第二相粒子の界面 でのはく離による空洞の生成から,成長,合体のプロセス (Micro-void coalescence,MVC)をとる。水素の存在によっ てき裂発生抵抗および進展抵抗は低下する6) 。マルテンサ イト鋼におけるQC破壊は水素が存在しない場合にも起こ る。それは高張力鋼に見られる脆性的な破面で,主として 平坦な脆性破面から構成されているが,必ずしも{001}の へき開面とは限らず,平坦な破面がせん断で連結されるこ とが多い破面である6) 。水素存在下で得られるQC破面は 水素と無関係で得られるQC破面と形態的には類似してい るが,脆性破壊ではなく,力学的には延性破壊に近く,ひ ずみ支配型の破壊と報告されている1) 。EBSDによる結晶 学的解析においても,水素起因のQCを含む破面は{011} であり,へき開とは本質的に異なると報告されている7) 。

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Author: castage

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