――川口先生のご専門は膠原病ですが、このジャンルの難しさはどのような点にありますか?
何よりもまず、原因が特定できないことに尽きるでしょう。ただし、大まかには免疫担当細胞が過剰に反応し、自身の組織を攻撃しているというのがその仕組で、全身性強皮症にせよ多発性筋炎にせよ、免疫を抑える治療がこれまで行なわれてきました。その中心を担ってきたのがいわゆるステロイドです。
ステロイドは、免疫の抑制にも抗炎症にも非常に有効な薬ですが、副作用が多いというデメリットがあります。ステロイドが本来有している耐ストレス作用により、ステロイドの投与で体が一時的に元気を取り戻して食欲が増し、コレステロール値が上がったり糖尿病リスクが高まったりといったことが起きています。つまり、長期間に及ぶステロイド治療には好ましくない側面が多々あるわけです。
――そこで、ステロイドに変わる新たな治療法が求められている、と。
そうですね。20年前と比べれば、ステロイドの投与量を極力減らすなど様々な対策が取られていますが、それでも根本的な原因が解明できていないため、膠原病に対して本当に有効な治療薬というのはいまだ存在していません。
――では、そんな膠原病において、水素治療はどのような可能性を秘めているのでしょうか。
やはり、水素治療に携わるすべての人が理解しているように、酸化作用に対する抑制効果であり、一言でいえば還元作用でしょう。例えば関節炎を起こす部位には必ず酸化が起きており、その酸化を抑えることができれば炎症は治ります。副作用もありません。膠原病治療においてもこの仕組みを応用できるのではないかと期待しています。
もっとも、水素がリウマチや強皮症の強力な特効薬として成立するのかはわかりません。それでも強い薬を使い続けてきた患者にとって、これほど安全な治療法はなく、併用療法の1つとして水素治療を勧めることは、すでに私自身も行なっています。現在の私の環境で水素治療は行なえないため、辻直樹先生の辻クリニックを推薦しているのですが、何割かの患者は実際に「明らかに状態が良くなった」という体感を得ていますよ。
――水素治療は膠原病患者にとって、ポジティブな選択肢となり得るわけですね。
あくまで併用療法としてですが、サプリという感覚で、水素を投与し、炎症を抑えて関節破壊を抑制できる可能性は十分にあるでしょう。すでにマウス実験では、強皮症など様々な病気に対して有意なデータを示す論文が発表されていますからね。
水素は免疫そのものに作用するものではありませんが、それによって起こる炎症や線維化といった、“結果”の部分の改善に寄与するのではないでしょうか。この先のさらなる研究の進展に期待したいところです。
東京女子医科大学 リウマチ科 膠原病リウマチ痛風センター
臨床教授 川口鎮司 先生