――川口先生は膠原病治療、とりわけ強皮症治療の補助的な機能として、水素治療に期待されています。その理由は何でしょうか。
原因が究明できていない強皮症には、まだ特異的な治療薬が存在していません。かといって患者に対して何の処置もしないわけにはいきませんから、逆流性食道炎に対する胃薬や血流悪化を抑える薬など、結果的に十数種類もの薬を処方せざるを得ないのが実情です。当然、そうした患者は頭痛や目眩といった副作用に悩まされることもあります。その点でも、副作用のない水素は安心感がありますよね。保険適用外であることから、ネックになるのは価格ですが、それでも水素治療を望む患者はすでに一定数存在している印象です。
――水素は強皮症治療における活路になり得るでしょうか。
まだそこまで言える段階には至っていませんが、例えばリウマチなどは新規の薬が開発されたことで、投薬を受けながら長く付き合っていける病気になりました。それでも根本的な治療法はまだ開発されていません。強皮症もまずはそこを目指さなければなりません。
なにしろ強皮症の場合、原因物質を撃退する抗体を投与しても思うような結果が得られず、臨床研究が成功していないのが現状です。これはおそらく、単一な疾患であるリウマチと異なり、強皮症の原因が非常に広範囲に渡って存在しているためと私は考えています。珍しい難病でありながら原因が多数あるというのはなんだか矛盾めいていますが、すべての症例に共通するのは皮膚が硬くなるという症状とレイノー現象のみです。多々の原因により引き起こされる臨床症状を抑える手段として、水素はとても魅力的ですね。
――水素治療をもう一段階進めるために必要なことは何でしょう?
美容の領域ではすでに、酸化を抑えるアンチエイジング効果が認知され、大きなマーケットを築いています。水素治療をさらに推進していくためには、医療の分野でも同様の現象を起こす必要があるでしょう。
私がこうして水素に関心を寄せているのは、過剰な酸化現象が強皮症にて生じているとする論文が多く発表されているからです。ただ、今までは、その治療薬としての抗酸化物質を開発できていないということです。その意味でも、水素治療は効果が期待できる可能性があります。現状の何倍もの量を投与すれば、さらに強皮症の治療に貢献できるのではないかというイメージもあります。ただ、量を増やせばやっぱり価格に跳ね返るというのが、患者さんのジレンマですよね。
――川口先生は今後、水素治療という分野とどのように向き合っていかれるのでしょうか。
少なくとも大学病院に在籍している間は、倫理的な面で、水素を処方することは不可能です。今後は医師主導型の臨床研究として公的な研究費を獲得し、学内の倫理委員会の承認を得て、水素治療の有効性や安全性を確認したいと考えています。
現在のマウスを用いた研究では、水素により皮膚の炎症が改善することがわかってきていますから、強皮症の治療ばかりでなく、アトピーのような皮膚の炎症性疾患にも効果があると期待しています。今後は、いろいろな病態に応用できるように水素治療の可能性を探索していきたいと思いますし、これを私のライフワークの1つにしたいと考えております。
東京女子医科大学 リウマチ科 膠原病リウマチ痛風センター
臨床教授 川口鎮司 先生