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燃料電池自動車や水素ステーションで使用されているオーステナイト系ステンレス鋼の水素脆性を調べるため,未チャージ試験片を用いて100MPa前後の高圧水素ガス中で低ひずみ速度引張(SSRT:Slow Strain Rate Tensile)試験が実施されている.これに加え,電解チャージや高圧水素ガス曝露により水素チャージを施した試験片を用いた大気中や不活性ガス中でのSSRT試験も実施されている.前者の試験において水素ガス中から未チャージ試験片に侵入する水素は外部水素,後者の試験において水素チャージ試験片中に予め存在する水素は内部水素と呼ばれている(San Marchi et al., 2010)(Takakuwa et al., 2017).もし両試験で得られるSSRT特性を意図して一致させることができれば,内部水素SSRT試験で外部水素SSRT試験を代替できるようになり,設備費の削減や試験の簡易化が可能となる.しかし,両試験で得られるSSRT特性を直接比較した研究は少ない.San Marchi ら(San Marchi et al., 2010)は,SUS304とSUS316を用いて室温と223K(−50℃)で引張試験を行い,1~70MPaの水素ガス中での外部水素試験と1~40MPaの水素ガスに曝露した試験片を用いた内部水素試験では,絞りがヘリウムガス中に比べて低下すること,また,その低下量は内部水素の場合が外部水素の場合に比べて若干大きいことを報告している.Takakuwaら(Takakuwa et al., 2017)は,オーステナイト安定度が比較的低い SUS304(ニッケル当量Nieq=23.1mass%)とSUS316(Nieq = 25.5 mass %)のSSRT試験を室温で行い,78~115MPaの外部水素試験と100MPaの水素ガスに曝露した試験片を用いた内部水素試験において,相対絞りRRAが一致したことを報告している.ここで,相対絞りRRAは外部水素または内部水素による絞りφHと大気中の絞りφの比(RRA = φH/φ)である.顕著な絞り低下を示した SUS304 の破壊プロセスにおいては加工誘起マルテンサイトが生成し,破面が疑へき開(QC: Quasi cleavage)で覆われた一方,Nieq が大きく,オーステナイト安定度が高いSUS316L( Nieq = 27.8 mass %),HP160( Nieq = 34.3 mass %),XM-19( Nieq = 37.1 mass %)においては,ディンプルを伴うカップアンドコーン破壊が起こり,外部水素では RRA ≒ 1,内部水素では RRA ≒ 0.80 となったことが報告されてい る.JIS 規格(JIS,2015)で 300 番台のオーステナイト系ステンレス鋼に属するSUS304,SUS316,SUS316L に 比べ,HP160 と XM19 には 0.39 と 0.33 mass %の窒素 N が添加されており,Nieq と強度が高められている(Takakuwa et al., 2017).換言すると,HP160 と XM19は,優れた耐水素脆性を有する高強度オーステナイトステンレス鋼である.