水素吸蔵合金による水素貯蔵タンクの温度変化の解析に関する研究

再生可能エネルギーによる発電を活用することは,地球環境の負荷軽減に果たす役割は極めて大きい.しかしながら,再生可能エネルギーによる発電の多くは,その特性上不安定な電力供給にならざるを得ない.このような不安定な電力供給では,余剰電力の有効活用のために蓄電が重要となる.今後,再生可能エネルギー発電による余剰電力はさらに拡大し,大量に長期間蓄電する方法が早急に求められている.水素は,水を電気分解することで得られ,燃料電池で二酸化炭素を出さずに発電が可能であり,さらに,長期間,大量に貯蔵ができることから,再生可能エネルギー発電の蓄電として有力な候補である(Momirlan and Veziroglu,2002)(Nowotny and Veziroglu,2011).

水素の貯蔵方法(Zuttel,2004)は,高圧貯蔵や液体水素のほか,有機ケミカルハイドライド(岡田,2010)なども提案されている.最近になって,水素吸蔵合金(Rusman and Dahari,2016)も再び見直され始め,省スペースでの貯蔵が可能で,100 ℃以下の比較的低温,10 気圧以下の比較的低圧で貯蔵可能で,爆発の危険性が低いため,安全性を重視する定置型タンクで有望視されている.特に,チタンと鉄の化合物である鉄チタン(FeTi)において,最近,ボールミリングで機械的に合金化するメカニカルアロイング製法(以下MA 法:Mechanical Alloying)により作製したナノ化鉄チタン水素吸蔵合金(n-FeTi)が実用水素貯蔵タンクに有望である(松下他 , 2019). ナノ化鉄チタン水素吸蔵合金(n-FeTi)は,粒子崩壊が少なく,水素吸蔵量の初期状態からの劣化がなく(阿部他,2017),さらに価格が安いという利点もある.

水素吸蔵合金を使用した実用水素貯蔵タンク(Darzi et al.,2016)(Murthy,2012)(Endo et al.,2019a,2019b)には,その開発において,タンクの伝熱促進(Afzal et al.,2017)(Shaji and Mohan,2018)が不可欠である.設計段階において,伝熱促進の評価に数値解析を実施することは,経費節減,開発期間短縮のためにも有効である.現在,著者らは,ナノ化鉄チタン水素吸蔵合金(n-FeTi)を使用した実用水素貯蔵タンクの実証研究を行っている.その開発において,タンクの伝熱促進の設計のために数値解析を実施している.しかしながら,水素吸蔵合金充填層の伝熱解析には,熱物性に関する研究が不足している.特に水素吸蔵合金は,水素吸蔵時に膨張し,水素放出時に収縮するが,その膨張収縮に伴う熱物性の評価を解析に取り込んでいる研究はほとんどない.粉体層における熱物性は,それ自体が複雑で実験に基づく式を作成することが適切である.著者らは,ナノ化鉄チタン水素吸蔵合金(n-FeTi)の膨張収縮を観察した状態で,熱物性の計測を行った(Matsushita et al., 2019).この実験で得られた熱物性を実験式として,数値解析に活用する研究を行っている.

本報告では,開発中のナノ化鉄チタン水素吸蔵合金(n-FeTi)を充填した実用規模の水素貯蔵タンクの数値解析について報告を行う.数値解析では,水素吸蔵合金の膨張収縮を以下の二点で考慮している.まず,水素化により空隙率が変化するため,この空隙率変化を単位体積当たりの発熱量の変化として考慮した.次に,水素化に伴う熱物性の変化として,著者らの実験(Matsushita et al., 2019)に基づく実験式を使用した.解析結果については,水素貯蔵タンクの実験結果との比較することで,その妥当性の評価を行った.また,本解析により,伝熱促進フィンに対するタンクの水素貯蔵性影響について検討した.結果から,水素吸蔵合金を使用する水素貯蔵タンクの解析において,水素吸蔵にともなう熱物性の変化を考慮することの重要性について報告する.

 

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Author: castage

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