水素自動車が排出する二酸化炭素に関する一考察

 二酸化炭素の排出が地球温暖化にどの程度影響しているかは議論の余地の残るところではあるが,現時点で商用化されている水素自動車(燃料電池車)は走行時に二酸化炭素を排出しないので,地球温暖化防止に有効であると広く認識されている.しかし,水素は,工業的には天然ガスから製造されているので製造時点で二酸化炭素が排出される.そこで,水素自動車が実質的に排出する二酸化炭素量を推計し,ガソリン車,ハイブリッド車,電気自動車が排出する二酸化炭素量と比較して考察した.ここで,電気自動車については発電時の排出量であるので,各国の電力ミックスに大きく依存する.比較考察した結果,日本の場合,水素自動車と電気自動車の二酸化炭素排出量は現時点ではほぼ同量であるが,政府が2030年に目標としている電力ミックスで考えるとむしろ電気自動車の方が少なくなることがわかった.したがって,水素ステーションなどに膨大な設備投資を行って取り扱いが難しく非常に危険な水素で走行する水素自動車の普及を推進するより,現時点でもかなり普及している電気自動車の更なる普及を促進する方が合理的である.本稿では,最後に,水素の製造や発電の際に排出される二酸化炭素の地中への貯留手法であるCCSの現状と実現性についても言及した.

 水素自動車は,水素そのものを燃焼させる方式と燃料電池で発電する方式に分けられるが,前者はまだ試験走行の段階である.本稿ではすでに商用化されている後者(以下,水素自動車)の二酸化炭素(以下,CO2)排出量について考察する.世界で最初の水素自動車は,GMが1966年に開発したElectrovanであるが,一充填(燃料タンクに液化水素を満杯にした状態)での走行距離は240kmであった.その後,量産体制で販売が開始されたのは,国内では,トヨタ自動車のMIRAIが2014年(720万円台),本田技研工業のクラリティFuel cell(以下,クラリティ)が2016年(760万円台)である.水素自動車は,燃料として充填された水素と空気中の酸素の化学反応で水を生成させ,その際に発生する電気を蓄電池に蓄え,この電気でモーターを回す.したがって,走行時に排出されるのは水蒸気だけであり,CO2の排出はなく環境に対してクリーンな自動車とされている.現在危惧されている地球温暖化に温室効果ガスのCO2がどれほど寄与しているかについては,さまざまな想定で推測されているのが現状であり,影響は微小との見解もある.したがって,自動車が走行時にCO2を排出しなくなった場合に温暖化がどの程度防止できるかは推測の域を出ないが,水素自動車は温暖化を緩和する効果があるものとして期待されている.

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Author: castage

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