「水素ガス吸入器」で認知機能が向上?( 「週刊新潮」2019年7月4日号 掲載 )

「水素ガス吸引」で万病退治・若返りは本当か(2/2)

 数年前の水素水ブームとはひと味違う、「水素ガス吸引」とは。その効果のほどは歌舞伎役者の坂東玉三郎も「疲れが取れるようになった」と太鼓判を押し、がん治療に水素吸入器を導入する医療施設の例もご紹介した。認知機能改善や若返りもあるという“吸引”事情をさらに探ってみよう。

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「週刊新潮」の20代男性記者も、へリックスジャパンの水素吸入器「Hycellvator ET100」を試してみた。都内にある同社に吸入室があるのだ。吸引前にあらかじめ左手薬指の毛細血管をチェックしたうえで、チューブの先端の二つの突起を鼻の穴に入れ、無味無臭の蒸気を60分吸った。その後、あらためて毛細血管を調べると、血流がスムーズで、血の色が濃くなっているように見えたのである。

 同社の有澤生晃社長は、

「水素を吸うと副交感神経が優位になって血流がよくなることは、血流スコープで確認できます」

 と語る。その結果なのかどうか、白髪が黒くなったとか、肌がツルツルになったという声も上がっているとか。ただし、この吸入器の価格は220万円と、なかなかの高額である。

 しかし、前回触れたように、玉三郎が愛用しているオプスの製品は1台350万円とさらに高額だ。それでも、同社の小林雅之社長は、

「政治家から芸能人、経営者、スポーツ選手まで、幅広い方にお使いいただいています」

 と言って、続ける。

「基本、健康長寿を目的にご利用いただいていますが、普段から強烈なプレッシャーに晒されている方などは、リラックス効果を求めておられます。俳優さんだと肌つやがよくなったとか、舞台に上がる方だと、大変な現場でもあとに疲れが残らないというお声も。スポーツ関係で、体が軽くなったとおっしゃる方もいます」

 同社の関係者によれば、市村正親と篠原涼子夫妻や、丸川珠代参議院議員、鳩山由紀夫元首相らもユーザーだという。

認知機能が向上した

 これに対し、アクアバンクが販売する3万円台のポータブルな吸引具「KENCOS3」は、随分安価なのが気になるが、

「1分間に最大8ミリリットルの水素ガスを生成。これで水素吸引することで、副交感神経を優位にするリラックス効果、脳が活性化する認知機能向上効果が得られることがわかっています」

 同社の竹原タカシ社長はそう自画自賛しつつ、

「筑波大学大学院の矢田幸博教授と共に行った研究でも、効果が示された」

 と、独りよがりでないことも、同時に強調する。

「昨年5月末から、鹿児島県西之表市で実施した産官学連携の研究では、水素吸引の高齢者の認知機能への影響を調べました。MCIと呼ばれる認知症予備軍の方を50人選び、1カ月にわたって1日5回、“KENCOS3”で5分ずつ水素吸引してもらいました。きちんと吸引できた方は17人でしたが、彼らは1カ月後の検査の結果、認知機能の向上が見られたのです」

 昨年7月からは、神奈川県鎌倉市と共同で、半年ほどかけて実験したという。

「調査参加者募集の張り紙に集まった100名ほどの市職員を、ストレス・疲労関連を試験する35~55歳の男女71名と、疲労・認知関連を調べる55~65歳の男女30名に分け、前者をA、B群、後者をC群としました。水素吸引を続けて2カ月後、吸引前とくらべ、実年齢より脳年齢が高い人の数が減少し、認知精神機能の向上や改善が示唆されました。また、C群の参加者は3カ月の吸引で最高血圧が10下がり、水素によって血圧低下の可能性があることがわかりました」

 筑波大の矢田教授にも補足をお願いしようか。

「水素吸引すると体はリラックスし、脳は活性化するので、疲労を抱える現代人には特に有効です」

 と語る矢田教授は、

「水素水の効果については半信半疑でしたが、今では、水素の効果は間違いなくあるものだ、と確信しています。ただ、どうして効果があるのか、メカニズムがわからないので、これからの研究が必要です」

 と言い、竹原社長が触れた実験について、

「鹿児島県ではアクアバンクの『KENCOS3』に認知機能の向上、不眠の改善や抑うつ効果があることがわかりました。鎌倉市との共同調査でも、ストレス低減や認知機能向上の効果があることがわかりました。私は最低でも、寝る前に1度は水素吸引していて、できれば1日3回くらい吸いたいと思っています」

 ちなみに、週刊新潮の20代女性記者も、「KENCOS3」から水素を5分ほど吸う前と後とで、身体機能にどんな変化があるか、という検査を受けた。結果、短期記憶は2点から7点、長期記憶は0点から10点へと上昇し、総合得点は13点が26点へと倍増した。もっとも、10分程度の簡易的な検査で果たして、というのが、記者の偽らざる感想ではあるのだが。

エビデンスがない…

 テレビなどでお馴染みの姫野友美医師も、

「私のクリニックでは水素吸入を不眠症の患者さんに使っています。私自身、週1回、ストレッチのあとに水素吸入をしていますが、夜はぐっすり眠れます」

 と語るが、水素吸引の効果を、だれもが手放しで礼賛するわけではない。山形大学理学部物質生命化学科の天羽優子准教授は、

「水素吸引は、体内に吸引できる水素の量が水素水とくらべて圧倒的なので、なんらかの効果が出るかもしれません」

 と言いつつも、

「クリニック等で腰痛、高血圧、疲労回復などさまざまな効果があると喧伝されているようですが、言い過ぎではないでしょうか。たとえば、水素吸引の腰痛への効果の根拠となる論文がないのなら、その効果を考えるだけ無駄です」

 また、『暮らしのなかのニセ科学』の著書がある法政大学元教授の左巻(さまき)健男氏は、

「水素吸引が健康によいのであれば、どのくらいの量を吸引すれば、どの病気にどんな効果がある、ということを示すべきです」

 と、さらに手厳しい。

「現状は、たくさん吸えばなんとなく健康によいという感じで、エビデンスがない。水素吸引で認知機能レベルが向上したと結論づける論文は、参加者が17人しかいないのが問題です。鎌倉市の職員を対象にした調査もそう。ストレスの自覚はそのときの気分に左右されるもので、参加者が、これだけ根気の要ることをやったのだから効果が出てほしいと期待し、よい結果が出たように回答してしまうのは、当然でしょう。多くのスポーツ選手が吸引しているといいますが、スポーツ選手にとって水素吸引は、ゲン担ぎにすぎません」

 そして、こう結ぶ。

「今後、がん治療に有効だと言われないかと心配です。末期がんで藁にもすがる思いの人が、水素吸引でがんが消えると聞けば、なにも考えずに飛びつくでしょう。ほかの治療を受けず、水素吸引だけにこだわったばかりに、命を落としてしまうかもしれません」

 ちなみに、がん治療に導入し、症例を貯めていると前回紹介したくまもと県北病院機構玉名地域保健医療センターの赤木純児院長の治療法は、

「水素ガス、ハイパーサーミアという温熱療法、オプジーボ、あとは少々の抗がん剤を使って総合的に治療するというもの」

 だという。「水素だけ」にこだわれば、危険なのは当然だろう。

「水素が効く、効かない、という議論をしても、今の段階では水掛け論になってしまいます。水素は体にいいらしい、副反応はないらしい、ということであれば、とりあえず、それぞれの判断で取り入れてみてもいいのではないでしょうか」

 と“仲裁”するのは、慶應大学医学部循環器内科准教授で水素ガス治療開発センター長の佐野元昭氏で、吸入器については、こうアドバイスする。

「水素がある程度の濃度で出て、水素以外の問題ある物質が出ない、ということを基準に、あとはライフスタイルに合ったものを選べばいいでしょう」

 副作用がないなら、まずは試してみるか、否か。玉三郎と同じ吸入器も、高級車を買うと思えば安い――。そう思える人は、どうぞ。

「週刊新潮」2019年7月4日号 掲載

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Author: castage

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