励起エネルギー移動を利用した多環芳香族炭化水素 のフェムトモル分析

 多環芳香族炭化水素(PAHs)は環境汚染物質として広く知られている。人体に対する有害性が認められているものもあり、発がん性、遺伝子変異、内分泌かく乱作用などが報告されている 1)。環境中の PAHs を検出するために様々な手法が用いられており、特にガスクロマトグラフィー質量分析法(GC-MS)の有効性が示されている 2,3)。しかしながら GC-MS の計測範囲は 300Da 程度の低分子量試料に限られることが多く、高い分子量を持ついくつかの PAHs に対して適用することが難しい。一方 PAHs は紫外・可視領域に強い吸収を持つ分子が多く存在するため、レーザーイオン化質量分析法(LDI-MS)やマトリクス支援レーザー脱離イオン化法(MALDI-MS)も有効であると思われる。しかしながら、効率は悪く検出限界は~10-7mol であると報告されている 4)。MALDI-MSの場合、用いるマトリクス分子の開 裂によって生じた無数のイオンにより低分子量領域が妨害されるため、低濃度の PAHs 検出に用いることはさらに難しくなる。

 近年我々は、PAHs分子の一つであるアントラセンを励起レーザー光のエネルギー捕集アンテナ分子として用い、他の PAHs 分子への励起エネルギー移動を起こ させることで、特にペリレン、ベンゾ a ピレンを高効率に検出する手法を開発した5)。この手法はアントラセンをマトリクス分子、PAHsを試料分子として用いた MALDI-MS の一部として考えられるが、~10-15mol といった極低濃度の PAHs までも高効率に検出できることが分かった。また上記の手法をさらに発展させ、アントラセンから他の PAHs への一段階の励起エネルギー移動で終わらず、その励起エネルギーをさらに別の PAHs 分子に移す。この 2-Step の励起エネルギー移動により、マトリクス分子のアントラセンの発光スペクトルと小さな重なり積分しか持たない PAHs 分子高効率イオン化検出にも成功した 6)。本稿では特に 1-Step の励起エネルギー移動を利用した方法について解説する。

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Author: castage

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