応力集中部を有するパイプライン用鋼X80における 水素起因擬へき開割れの発生・進展挙動

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低炭素社会の実現に向けた水素エネルギー社会構築において,既存の都市ガス用パイプラインを用いて水素輸送できれば,水素を大量かつ安価に輸送可能である。しかし,大規模地震による液状化が発生した場合,側方流動等に伴いパイプラインに大きなひずみが付与されることから,水素脆化が懸念される。著者らは,高圧用の都市ガスパイプラインで使用されているパイプライン用鋼X80の平滑試験片に関して,水素量の増加,およびひずみ速度の低下に伴い,ひずみ誘起空孔の形成が水素によって助長され,通常の介在物・析出物を核とするディンプルから,核のない浅くてフラットなディンプル破面へ遷移することで,水素脆化感受性が高まることを報告した。一方,実使用環境において,パイプラインの表面に腐食ピットや傷等の応力集中部が存在した場合の安全性評価とその破壊機構解明も重要となる。

代表的な高強度鋼であるマルテンサイト鋼の水素脆化破面として,粒界(IG)割れ2および擬へき開(QC)割れが知られている。マルテンサイト鋼の切欠き材に関して,IG割れは引張軸方向の主応力最大となる切欠きの前方で発生することから,応力支配の破壊であり,一方,QC割れは相当塑性ひずみ最大となる切欠き先端で発生することから,塑性ひずみ支配の破壊であることが報告されている。しかし,強度の低いフェライト・ベイナイト複相組織であるX80の水素脆化の支配因子は,高強度で単相のマルテンサイト鋼のそれとは異なる可能性がある。さらに,割れの発生・進展においても異なる可能性がある。

低中強度のフェライト系組織鋼の主な水素脆化破面として,QC割れおよび特浅いディンプルが知られている。QC割れの発生に関しては,水素環境下で破壊したX80QC割れ破面直下においてナノボイドが観察されている。また,QC割れの進展挙動に関しては,純鉄において,水素によって転位組織の発達が抑制され,{001}へき開面に沿ってQC割れが進展することが報告されている。ただし,同一材料を用いてQC割れに至るまでの潜伏期から割れの発生・進展までの一連の過程を複数の解析手法で調査した報告例は少なく,実態解明までに至っていない。

本研究では,応力集中部を有するパイプライン用鋼X80が水素起因割れに至るまでの過程について,破面観察,2次き裂観察,応力解析,割れ発生・進展解析,破面の結晶学的解析など複数の手法から総合的に実態解明を試みた。さらに,フェライト・ベイナイト複相組織であるX80鋼の水素脆化で現れるQC割れと他の単相組織鋼で現れるQC割れとの共通性・特殊性についても検討した。

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Author: castage

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