プロトン伝導性酸化物 BaZr1-xYxO3-δは、ABO3 で表されるペロブスカイト型構造を有し、A サイトにアルカリ土類金属、B サイトに Zr や Ce の+4 価の金属元素が配位する。B サイトは 3 価の Y やランタノイド元素等で置換でき、置換量に応じて酸素が欠損し、高温加湿雰囲気下に晒すこと で、この欠損サイトに H2O がプロトンを引き連れた酸素として侵入し、電気的中性を結晶内にプ ロトンが導入される。導入されるプロトン量は、酸素欠損サイト数と比例関係にあるため、B サ イト置換量が多いほど結晶内のプロトン数が増加する。導入されたプロトンは 500~700°C の温度 域で、八面体の酸素間をホッピングしながら伝導する、いわゆるグロータスメカニズムと呼ばれ、 結晶内をプロトンが高範囲に伝導する。一方、結晶粒界はこの伝導を著しく低下させる。我々は、 BZY エピタキシャル薄膜を作成し、評価することでプロトン伝導特性の本質に迫ることが出来る と考え、スパッタ法による単結晶薄膜を実施した。また従来の焼結体では、B サイトへの Y の固 溶限界が~20%であったのに対し、スパッタ法での非平衡状態では、より高濃度の Y 置換が期待 できる。MgO(100)基板を用いて Y の固溶限界を検討した結果、エピタキシャル成長を維持しつつ 50%置換できることを確認した。この BZY 薄膜は加湿された Ar ガス雰囲気中では、従来のプロ トン伝導材料と同程度の伝導度(0.001 S/cm, Ea = 0.11 eV)を示すのみであった。処理雰囲気を検討 した結果、無加湿の 5°CH2、95°CAr 雰囲気中、700°C で数時間処理することで、100°C から 700°Cの温度領域において 0.01 S/cm 以上の高い伝導度を示すことを見出した。この伝導種がイオン(水素イオン:H+ , H-、酸素イオン:O2-)であるのか、電子であるのかを確認するため、ホール効果、 水素濃淡起電力等の測定を行った。その結果、イオン伝導が支配的であることが示唆される。また薄膜内の水素イオン分布を二次イオン質量分析(SIMS:Secondary Ion Mass Spectroscopy)により 評価した結果、薄膜内に均一に存在し、従来の H2O でプロトンを導入した場合と比較して約 2 倍 程度存在していることを確認した。高伝導化処理を、BaZrO3 単結晶(Crystec 製:5 mm×5 mm×0.5 mm)に施した結果、バルクの単結晶試料でも同様の伝導度を確認した。前回、BZrO3 単結晶のバルク体のまま、高伝導化を行ったため、単結晶内部・表面での処理状態が異なるため、差フーリエ合成データに再現性が得られない結果に終わった。本研究においては、処理状態の均一性を図るため BaZrO3 単結晶を数十µm の粒子に粉砕し、高伝導化処理を行った。処理有無の試料における結晶構造解析を行い、伝導特性とそれらにおける結晶構造の差異および関連性を見出すことを目的とした。